太陽様の日差しが窓を通して熱波を伝えてくる中、教室には先生が黒板にチョークを立てる音だけが聞こえる。
夏。
うちの学校は田舎だから、エアコンなんて便利なものはなくて茹だるような暑さだ。
大体このご時世にエアコンがないなんてどういう了見なんだろう。
3Cはどこにいった、今は令和だぞ。
しかし今日は静かだ。
いつもならコソコソとうるさいお調子者も、どうやら夏の暑さには勝てなかったらしい。
「…ねぇねぇ、これ。」
後ろの席の大川さんだ。
授業中に声をかけるような子ではなかったはずなのに珍しい。
「どうしたの?これ」
「後ろから回ってきたの。書いて回してって。」
チラッと教室の後ろを見てみると、一番後ろの席でお調子者の関谷くんがニヤニヤしている。
前言撤回。
どうやら夏の暑さもお調子者には勝てなかったらしい。
静かだと思ったらあいつが発案か。
全く、手紙を回して遊ぶなんて小学生までだろう。
手紙の中身は…しりとりか。
これでも僕はボキャブラリーは多いと自負している、しりとりはお手の物だ。
しりとり、りんご、ごりら……
〝ら、ランカ・リー?!〟
…っ危ない、声に出すところだった。
一体誰が一般的なしりとりで〝ランカ・リー〟を目にするだろうか。
というか、僕の前が〝ランカ・リー〟ってことは大川さんがこれを書いたのか…。
人は見かけによらないって本当なんだな。
この年頃ではオタク趣味は敬遠される傾向にあるし、それを堂々と書くなんて…勇者だ。
僕は心の中で大川さんのことを勇者さんと呼ぶことに決めた。
でも、これだと勇者さんが浮いてしまうな…
いや、普通に考えて浮くだろ、なんでこれ書いたんだよ。
仕方ない、ここは僕が一肌脱いであげるしかないか。
これでよし。
勇者さんの〝ランカ・リー〟より長いし目に入りやすくてインパクトもあるだろう。
これで回すにしても、前に回すと先生に気付かれそうだし隣で良いか。
「…鈴木くん、これ書いて回してほしいって。」
────しかし勇者さんにはびっくりしたな。
普段からあまり目立たない子だし自己主張もしない子だと思ってたんだけど、アニメ好きだったのか。
しかもランカ・リーって結構古いぞ。
相当コアなファンなんだろう。
なんたってしりとりに書くくらいだし…。
たしか勇者さんって吹奏楽部────
「……い!おい、聞いているのか!」
うるさいな。
誰だよ指されてるの、早く返事してやれよ。
この先生、一度怒ったら長いんだぞ。
「ねえ。」
勇者さんだ。
今度は一体どうしたと言うのだろう。
「指されてるよ。」
……!
僕が指されてるのか!
勇者さんのしりとりに悶々としていたから全然授業に集中してなかった。
どうしよう、どこ指されてるのか分かんないぞ。
「早く立って答えなさい。」
やばい、もう声が怒ってきてる。
そういえば、さっき勇者さんが指名されてるのを教えてくれた時、何か一緒に渡してきたな。
もしかして…!
これに答えが載っているのか!
ありがとう勇者さん!!
これでさっきのしりとりのフォローはチャラだ。
よし、この手紙の内容を答えれば───────
〝アイリスフィール・フォン・アインツベルン〟
───勇者さん…Fateも好きなんだ…。
しかもちゃっかり ン で終わらせてるし…。
僕は先生に怒られた。