昔昔あるところに菅原という少年が居ました。
菅原くんは声の大きな男の子で、いわゆるクラスの中心グループのひとり。
今日の休み時間もまた、クラスの違う子の机を椅子替わりに、クラス中に聞こえる声で話す菅原くんの声が聞こえる。
「でもさ〜やっぱ須藤のが可愛くね?」
「でも」から話し始めるのは菅原くんの口癖だ。
この否定から入る菅原くんの話はいつも癪に障る。
聞きたくないのに声が大きいからこの狭い教室では逃げ場がない。
「俺まじ須藤狙ってから、出会った時の第一印象もばっちりだしな。」
出た、第一印象の話だ。
菅原くんは見た目まあまあかっこいいから、あの顔に釣られる女が結構いる。
そんなものだから菅原くんは人からの第一印象が良いことをよく自慢する。
ちなみに僕は菅原くんのセンター分けが嫌いだ。
「ガチで人間は第一印象で決まっから。」
業腹だけど、この発言には同意だ。
僕の中では、嫌いなところを先に見つける部隊Aと好きなところを先に見つける部隊Bが競争していて、どっちの部隊が勝つかで今後のその人の印象が大体決まってる。
ちなみに僕は初対面の時から菅原くんのセンター分けが嫌いだった。
部隊Aよ、よくやった。
「一目惚れだよ、一目惚れ、俺基本毎回一目惚れされっからさ!」
今一目惚れって3回言ったな。
昨日見たドラマで俳優が語っていた、ひとつ嫌いなところを見つけてしまったらその人のことを好きになれないみたいなことが、今ピンと来た。
僕は菅原くんの “センター分け” が最初だったけれど、“「でも」から入る口癖” も “一目惚れって3回言うところ” も嫌いになってしまった。
あのドラマも良い事を言うな。
昨日たまたま見ただけだったけど、帰ったらしっかり最初から見返すことにしよう。
「まあ、間違いなくもう俺と須藤は恋人まで秒読みだな。」
〝キーンコーンカーンコーン〟
「ちっ、もう授業かよ、今日は須藤のこと誘うからお前らとは帰れねえから。」
よし、今日の休み時間も乗り切った。
嫌いなやつほど気になってしまうとはよく聞く話だけど、菅原くんの話を休み時間中聞いてしまった。
まあ、菅原くんの声がデカいせいだろう。
さて、次の授業は苦手な英語だ。
よく英語教師になれたなってくらい発音が気持ち悪い先生で、それも苦手な要因に一役かってる。
休み時間の菅原くんの話も相まって憂鬱になってきた。
今日は彼女に癒してもらうことにしよう。
ちなみに、須藤は僕の彼女だ。